ユウのよしなしごと

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【鮎の友釣り】敷居の高さが資源を守る?

実家に帰ったので、親戚に鮎釣りへ連れて行ってもらった。

 

子供の頃、「これが50万円の竿だよ」と、棒高跳のように長い友釣り用の竿を触らせてもらってから早10年、やっとこの釣りに触れることが出来た。

なぜ、友釣りは成立する?

海釣りばかりやってきた自分にとって、鮎釣りというのはまさに未知の領域だった。

なぜ、友釣りという釣りが成立するのか。
連れて行ってくれた、僕の釣りの師匠とも言うべき人はこう話す。

鮎は水中の岩に付いた苔を主食とする。

良質な苔が生えている場所は限定的だから、鮎は良質な餌場を見つけたら、そこを縄張りとして守る。

多くの動物にとって、一番の弱点はお尻(肛門)である。

だから鮎は、縄張りに近づいてきた鮎の肛門を狙って尾びれで体当たり攻撃する。

オトリ鮎のお尻にハリを仕込むことで、攻撃した鮎を引っ掛けることができる。

また、

良質な餌場を縄張りとして”占める”魚だから、「鮎」という名が付けられた

この時点でも、鮎釣りがなんと興味深い釣りか分かってもらえると幸い。

すべてが専用品

さて、その鮎釣りであるが、持ち物を聞くと、驚いたことに「海パンだけ持ってきてね」とのこと。

そう、すべてが専用品で固められている。

まず、竿。延べ竿と言ってしまえばそれまでだが、今回お借りしたのは9mもの長さで、もちろん、友釣り専用。
全体がカーボンで出来ているから、その長さからは想像できないほど軽量で、さらに先端がメタルティップとなっているため、オトリアユの震えや野鮎が引っかかった際のアタリをよく感じることができる。

また、ラインはナイロン・PE・メタルファイバーを何継ぎもした専用品、ハリももちろん専用品。

その他タモも、ウェーダー、ベスト、靴、防止…!

すべてが専用品だった。全身揃えたら、確かに50万円はゆうに行く…

 

まったく手軽な釣りではないと思う。

まずは「コロガシ釣り」でオトリを捕まえる

さて、いきなりオトリアユをハナカンに付けて…と思ったら別の竿を渡された。

”トモ”は”コロガシ”でオトリを捕まえてからだぞ」。

トモとは友釣り、コロガシとはコロガシ釣りのことである。

ロジックとしては単純で、まずはオトリとなる鮎を仕入れなければ友釣りは出来ない。

また、鮎釣りは山地を流れる清流でこそ成立するため、そのポイントに着くのは近くに住んでもいない限り、常識的な時間に家を出発すれば到着は昼になるだろう。

鮎にも活性があって、暑い昼間は深場でおとなしくしているため、友釣りは成立しにくいのだという。

鮎を釣り場近くの釣具店で買うこともできるが、1匹500円ほどするうえ野鮎に比べると動きが悪く、あまり相手にされないらしい(自然の厳しさ…)

そのため、コロガシと呼ばれる釣法でオトリを数匹仕入れるのが、スタートとなる。

 

コロガシとは、要は引っ掛け釣りである。これもコロガシ専用の竿(これも8mほど)に道糸を付け、オモリを付けたら、その下に専用のハリが4本連なった仕掛けを取り付ける。

そのハリはそもそもカエシがなく、ただ刺すだけに特化したとても鋭利なもの。

この仕掛を河の流心に放り込み、近くにいる鮎を引っ掛けるというのが、コロガシ釣りである。

この釣り、ただの引っ掛け釣りと思うなかれ。

まず初心者には長竿の処理が難しかった…いくら軽量仕立てとはいえ、8mの竿の扱いに最初は面食らう。

また、この釣りは絶えずオモリの場所を見ていること、糸のテンションを常に張っておくことなど、ルアーフィッシングにも活かせそうなことが多々あった。
ハリが鋭利なぶん無限に引っかかるけど、ラインテンションを張りながら竿を動かすとうまく外れてくれるなど…

オモリのキャストにしたって、ライナーに、水面スレスレに静かに落とす…まさにピッチングであった。これを8mもの竿でやるのはこの釣りだけだろうけど笑

師匠のアドバイスもあって、幸い、ここで7匹ほど釣ることが出来た。
タモでの取り込み、苦労したなあ…

オトリローテーション

さて、コロガシ釣りに夢中になっているうちに、時刻は15時。そろそろ”トモ”の時間だと師匠は言う。

魚はたくさん跳ねている。オトリもたくさんいるし、もしかして友釣り初めてにして爆釣かも?期待が高まる。

 

「まずは1匹釣っちゃるけ」

そう、友釣りは最初の1匹が釣れるか、釣れないかがかなり重要だという。というのも、友釣りでは釣れるごとにオトリアユを交換していくらしい。

コロガシで釣ったアユは、とはいえいろいろとダメージを受けている。そして、これから釣ろうとしている野鮎は、そんなに元気のない鮎はまず相手にしない。ので、まず1匹目を釣るのが大変(野鮎を”その気にさせる”元気が必要)。

そして1匹目が釣れたら、今度はその釣れた1匹目をオトリアユとして使う。どうも、先程釣れた場所(つまり、守っていた縄張り)に戻る性質があるらしく、さらに縄張りには釣り人がオトリアユを交換している数分のうちに別の鮎が「ええとこ空いとるやんけ」と空き巣するらしい。

そこに先程釣れてオトリ化された先住鮎が戻ると…喧嘩が始まってくれる、というもの。つまりこの野鮎のオトリアユローテーションが、友釣りを回転させるエンジンとなるわけ。

オトリアユは使い回すものだと思っていた自分は、このロジックがとても興味深いものだった。

鮎は”天邪鬼”

しかし、現実は甘くない…

まず、鮎が言うことを聞かない。

先んじて、師匠から「鮎は”天邪鬼”じゃけ」と注意されていたが、まさに天邪鬼であった。

釣ろうとしている野鮎は岩の深場にいるとして、その深場にオトリアユを誘導するわけだが、オトリアユは人間の希望の場所から気持ちいいほど反対方向に泳いでゆく。

それを竿で「こっちいけ」と引っ張ると、鮎は「いやじゃ」と反対に行ったり、深場に潜ったりする。

なので竿で強引に「こっちじゃけ!」と引っ張れば、鮎は「ハイ、そうですか」と人間の方に戻ってくる。
いやいや、アナタに行ってほしいのは対岸の岩の深場なんですけど…

 

師匠はよく、アユを会社の部下に例えていた。

命令すると、ぜんぜん違うことをする。
あまり強く言い過ぎると、萎縮して何もできなくなる。

要は中庸で、どうやったら自分の思うように動いてくれるのか、竿を使って鮎をたくみに操作するのが醍醐味だという。カーネギーの『人を動かす』が思い出された。

 

プラスチックや木製の、生きていないルアーを動かすのとは、まったく違った釣趣だった。

魚がいるだけでは成立しない

この日はあまり活性が高くなく、野鮎がオトリを追わないためなかなか釣れない時間が続いた。
というのも、最近の日照りで水位が下がったことで餌が良質なものではなくなり、野鮎が特定の餌場にこだわらなくなるのだという。こんなにも魚はピシャリと跳ねているのに…
ただ魚がいるだけでは成立しない、この釣りの奥深さを知った。

 

とはいえ、1匹だけ私の言うことを聞かない部下(笑)に反応してくれて、コロガシ/トモの両方で釣れたことで納竿。

 

釣れた鮎からは、どこか懐かしくて切ない、スイカの香りがした。

【後日談】敷居の高さが資源を守る?

「敷居の高い釣りだなあ」と思って、やってみたら実際に敷居が高かった。

お金はかかる、場所は遠い、釣りは難しい…

 

しかし、この「手軽ではない」ことこそが、鮎釣りを現在まで残しているのではないか、とも考えた。

この鮎釣りに比べれば、釣具屋で買ったルアーを箱から出して糸に結んでピュッと投げるだけで釣れる、いつもの釣りがえらく手軽に感じる。しかし、その敷居の低さゆえに釣り人は多く、さまざまなマナー等問題で釣り場が減少している昨今…

対して、きちんと決められた禁漁期があり、漁協へお金を払う必要があり、道具は実際に高価で、なんとなくベテランだけの世界のような雰囲気があり、初心者がゼロから始めるには難しいこの釣り。

どちらが正しいか、とかはないと思う。
ただ、日本のこの素晴らしい文化が、いつまでも残ってくれれば…と。