先日、故・矢口高雄先生の「おらが村」を読みました。
矢口先生といえば「釣りキチ三平」で有名な方で、11月下旬にお亡くなりになられました。
矢口の次女 かおるです。
— 矢口高雄 (@yaguchi_takao) November 25, 2020
父・矢口高雄は11/20に家族が見守るなか、眠るように息を引き取りました。今年5月に膵臓がんが見つかり、約半年病気と闘っていました。すごく辛くて苦しかったはずだけど、涙も見せず頑張りました。最後まで格好良い自慢の父でした。パパ、ありがとう。そして、お疲れ様。 pic.twitter.com/mcjw1eOuye
その影響か、家の近くの本屋の一角に矢口先生の作品のブースが作られており、そこでこの作品を知ったというわけです。
奥羽山脈がそびえる東北地方の片隅に、その村はある。人口はわずかに四十戸たらず、店は雑貨屋が一軒っきりで、鉄道もなく医者もいない。おまけに冬になれば雪に閉ざされてしまう辺ぴな土地……。しかし、ここは「おらが村」。代々営んできた暮らしがあり、深みのある人生がある。都会人が忘れてしまった「故郷」の鼓動、そして生活……矢口高雄先生が描くライフワーク的作品であり極上のヒューマン・ドラマシリーズ、ここに堂々の開幕! 村会議員・高山政太郎とその家族を中心にすえ、大小さまざまな事件がつづられる。クマ撃ちの武勇伝や、キツネ憑き騒動、ハタハタ談義で解決するもめ事、等々。それぞれの局面で政太郎はおうように構え、ときにはジッと沈黙して「おらが村」の来し方行く末に思いをはせるのだった
作品の時代は昭和40年代(1965~1975)、高度経済成長期とその弊害が生まれだした時代です。
場所は奥羽山脈ということで、東北のどこかにある村が舞台となっていますが、矢口先生自身が秋田県出身ということなので、そのあたりを想定されたのかなと想像します。
作品冒頭では、田舎暮らしの不便さと、都会暮らしならではの“不便さ”の両方を見比べつつ、結局は“おらが村”=自分の故郷での生活も「まんざらすてたもんでねえ」ということです。
主役となる高山家の実家は、囲炉裏がリビングの中心を担うザ・日本家屋。父親は村の役議会の議員を務める、ムラの中の“お偉いさん”。5人の子供がいるが、長男以外の男2兄弟と長女は東京へ“出稼ぎ”に、末娘も“街”にある学校に通うため、普段は街の寄宿舎に住んでいるそう。
今でも田舎の過疎問題が一向に解決しないが、このころから若者が村から居なくなっていることがうかがえますが、長男だけが村の縛りを受けているのはこの時代特有なのか、今もなのか。
豪雪地帯であるその場所は、雪が降り積もる冬にはな~んにもできない。主な産業は農業であるから、人々は雪が降り始めるまでに急いで収穫を済まし、雪解ける晴までは“おうち時間”ということです。
年の暮れ・正月には東京から息子たちが帰ってくるということで、その友人(関東住み)も交えて正月の乾杯をするシーンがあります。
田舎暮らしに憧れを持ったその友人は、都会では食べられない田舎の食事を楽しみつつ、都会にはない雰囲気を醸す木造の家を称賛。
それを聞いた弟も、「やはり実家が落ち着く」といい、
ふるさとはかわっちゃあいけねえさ。
昔のまンまであってほしいのさ…
と続けます。
しかし、生来ずっとその家に住んでいる長男は、
それはおめえたち都会に住む者の感傷だべえ。
ここに住む者の身になって考えてみろ!おめえたちはな。都会という便利なところに生活圏をもってて、たまたまここさ旅行に来た気分だから、そンただ身勝手なことが言えるのだ。
半年も雪に埋もれバスも通らねえ、こンたな山ン中がほんとにいいのけえ?
病人が出たってすぐ近くに医者がいるわけでもねえ…
何か変わったものが食いてえと思っても、買える店もねえ…こンただ不便なところがこのまま変わらねえでいいと思ってるのけえ!!
この村はもっともっと変えねばならねえ!!
この家だってもっと文化的に変わってもいいはずだ!!
過疎化の一途をたどる、おらが村。その実情を知らぬ外部の者からの発言に激昂したのでした。
この発言にはハッとさせられました。普段都会の恩恵を受けている自分たちは、たまにしか行かない田舎に対して勝手な理想を押し付けているのではないか…
『リーガルハイ』を思い出す
『リーガルハイ』第8話の「世界に誇る自然遺産を守れ!! 住民訴訟驚きの真実」を思い出します。
「奥蟹頭村」という自然豊かな美しい集落を、世界遺産に登録して保護するか、燃料廃棄物処理場や高速道路の建設など開発を進めるか、村民の間で意見が分かれるという話ですが…両者の意見とも、お互いの正義があるので、なかなか決まりません。
しかし、結局は堺雅人演じる古美門の思惑通り、開発側が勝利。
保護側として立った羽生弁護士に放った、古美門の発言が実に興味深いです。
わかってないのは君だよ。崇高な理念など欲望の前では無力だ。
所詮人間は欲望の生き物なのだよ。それを否定する生き方などできはしないし、その欲望こそが文明を進化させてきたんだこれからも進化し続け、決して後戻りはしない。
燃料廃棄物処理場を作り、高速道路を作り、ショッピングモールができ、森が減り、希少種がいなくなり、いずれどこにでもある普通の町になるだろう! そして失った昔を思って嘆くだろ う!
だがみんなそうしたいんだよ!素晴らしいじゃないか!
元はと言えば、古代から、都など一部を除いた日本のすべての土地が、現在でいう”田舎”でした。
それが時代が過ぎるにつれ、そこに住んでいる人の意向や欲望、権力により切り拓かれ、開発され、発展し、“都会”という今があります。
そうやって都会に住んでいる人が、何らかの事情で今も開発が進んでいない土地に対して、歪んだ幻想を抱くのはエゴなのではないか。そう感じました。
「田舎暮らし」はYouTubeのバズワードであるが
現在、YouTubeでは「田舎暮らし」が人気ワードであることは確か。
以前取り上げた沙耶香さんほか、たくさんの動画投稿者が田舎暮らしに関する動画を上げていますが、それはつまりニーズがあるということ。
「都会暮らしに疲れた」「でも田舎暮らしを始める勇気はない」そういった人がほとんどでしょうから人気なのだと思いますが、こういった動画を見て実際に始める人もいるそうです。
しかし、そこに住む人の葛藤や悩みを把握せず、憧れだけで始めるのもどうなのか…あまり軽率に動いていいものか、悩みます。
アマゾンプライム会員なら無料
「おらが村」は、現在アマゾンプライム会員ならPrime Readingで1巻目が無料で読めるので、ぜひ。