ユウのよしなしごと

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安倍晴明は実はキツネの子?和泉市にある「葛の葉稲荷神社」に行ってみた

手塚治虫の「悪右衛門」をご存知でしょうか?

 

平安時代の伝説をモデルにした短編なのですが、関西にゆかりのある話で、その聖地へ神戸に住んでる間に一度は行ってみたいと思っていました。

 

日本史を学んだことがあれば、どういう人か分からなくても「安倍晴明(あべのせいめい)」という人はどこかで聞いたことがあると思います。

 

陰陽師(占い師の一種)として活躍した彼は、実はキツネとの合いの子なのではないか?という伝説があるのです。

このマンガは実在する伝説とは異なる部分があるので、それらも含め、書いていきたいと思います。

 

…全然アウトドアと関係ないですね(笑)スミマセン。

実在する「葛の葉伝説」

まず、実在する方の「葛の葉伝説」について。

Wikipediaではこのように記されています。

村上天皇の時代、河内国のひと石川悪右衛門は妻の病気をなおすため、兄の蘆屋道満の占いによって、和泉国和泉郡の信太の森(現在の大阪府和泉市)に行き、野狐の生き肝を得ようとする。

摂津国東生郡の安倍野(現在の大阪府大阪市阿倍野区)に住んでいた安倍保名(伝説上の人物とされる)が信太の森を訪れた際、狩人に追われていた白狐を助けてやるが、その際にけがをしてしまう。

そこに葛の葉という女性がやってきて、保名を介抱して家まで送りとどける。葛の葉が保名を見舞っているうち、いつしか二人は恋仲となり、結婚して童子丸という子供をもうける(保名の父郡司は悪右衛門と争って討たれたが、保名は悪右衛門を討った)。

童子丸が5歳のとき、葛の葉の正体が保名に助けられた白狐であることが知れてしまう。

全ては稲荷大明神(宇迦之御魂神)の仰せである事を告白し、さらに次の一首を残して、葛の葉は信太の森へと帰ってゆく。

「恋しくば尋ね来て見よ 和泉なる信太の森のうらみ葛の葉」

この童子丸が、陰陽師として知られるのちの安倍晴明である。 

 「石川悪右衛門」は妻の病気を治すため、占い師の教えで、信太の森(現在の大阪府和泉市)で仲間と一緒にキツネを殺しまくり、そのキモ(肝臓)を集めていました。

1匹の白いキツネが、信太の森を歩いていた「安倍保名(あべのやすな)」の前で逃げ倒れ、それを見た彼は助けてあげるも、 悪右衛門の仲間といがみ合いけがをしてしまいます。

その後、彼のおかげで助かったキツネは彼に恩返しがしたいということもあり、人間の女性「葛の葉(くずのは)」に化け、彼を看病することに。しだいに2人は惹かれ合い、「童子丸」という子供を授かります。

しかし、子供が5歳のころに、葛の葉がうっかりして尻尾を出しているところを子供に見られてしまい、葛の葉が実はキツネであることがバレてしまいます。

葛の葉は一切の事情を話し、歌を残してキツネとして信太の森に帰ってしまいました。

その、人間とキツネのハーフが、歴史に名を残すほどの陰陽師「安倍晴明」となるわけです。確かに霊力のある動物といわれるキツネの血が入っていたら、人間離れしたなんらかの力が宿っていても納得がいきますよね。

 

「恋しくば尋ね来て見よ 和泉なる信太の森のうらみ葛の葉」

これは葛の葉が母として子供に残した歌で、「母が恋しくなったら、和泉の信太の森を尋ねなさい」という意味であることはパッと見でなんとなく分かりましたが、「うらみ」という言葉が個人的に引っかかりました。恨みなんてあったっけ?

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今は便利な時代になりましたね。「葛の葉 うらみ」で検索を掛けるとこのような記事がヒットしました。

「うらみ」という言葉には、「恨み」という一見ネガティブな言葉と、「裏見」という言葉が掛けられているのだとか。

恨みには「憎い」という意味のほかに「未練がある」「残念」という意味もあるそうで、これなら子供を置いて去っていかなければならない母の心情として自然に捉えることが出来ます。

また、「見る」という言葉には「居る」という意味も含まれているそうで、これならば「信太の森のうらみ葛の葉」=「信太の森の裏に葛の葉(母)は居る」と解釈することが出来ます。

 

また、クズという葉は裏が白いことで知られており、白いキツネと掛けていると考えることもできるようです。

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…うーん、こうしてみると古文の歌って本当によくできてるなって思いますね!

もっとちゃんと勉強すればよかったなあとしみじみ思います。今頃になって面白さに気付くなんて…

手塚治虫の「悪右衛門」

僕は「手塚治虫名作集①ゴッドファーザーの息子」で読みました。

他にも面白い作品がたくさんあるのでぜひ読んでほしい。

 

時代と舞台は、平安時代の信太の森で実在の伝説と同じですが、いくつか異なる点があります。

石川悪右衛門はキツネを狩りまくりますが、このマンガでは彼は雇われヤンキー。

和泉の国(現在の大阪府南部)の知事である「板倉左大将」は陰陽師に「1000匹のキツネを狩ると天下を取れる」と占われたそうで、乱暴で有名だった部下の石川悪右衛門に命じます。

 

白いキツネ「リズ」が狩人から命からがら逃げますが、ケガを負います。

上司からの命を受け信太の森近くを歩いていた大学者の安倍保名がそれを見つけ、介抱しますが、悪右衛門たちに捕らえられ、牢屋に入れられてしまいます。

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ひと仕事終えた悪右衛門は家に帰ります。そこには妻の葛の葉と子供がいました(←葛の葉が悪右衛門の実の妻であったことは伝説と異なります)。

 

白キツネのリズは安倍保名に恩返しがしたいと、仲間の反対をおしのけ救出に向かいます。

そこで目を付けたのが悪右衛門の妻の葛の葉。リズは葛の葉に化け、「夫に用がある」という理由で関門を突破し、牢屋のある敷地内に潜入。救出し彼を自由の身にさせました。リズは彼に一切の事情を話すと、いったん信太の森に帰っていきます。

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葛の葉が美人なんだこれが

当然、その後の牢屋は安倍保名がいないと大騒ぎ。彼を釈放した犯人として(本物の)葛の葉が挙げられます。

葛の葉は身に覚えのない罪を着せられ拷問されます。しまいには縄で締め上げられ、牛2匹で引っ張られるという必死の拷問に遭い、耐えきれず死んでしまいます。

死体は箱に入れられ、川に流されました。

 

悪右衛門は家に帰っても妻がおらず、不思議に思います。坊も母がおらず泣きじゃくり。

それを見ていたキツネたちは「だから人間にかかわるなと言っておいたのに…」という表情で、リズにしばらくの間「葛の葉」に化け、悪右衛門に仕えるよう命じました。

それは人間にかかわった罰のほかに、悪右衛門のそばにいることで彼が狩りに行く日を仲間に教えるというスパイ的な役割を含めていたのです。

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キツネは「キツネ火」というテレパシーで交信できるそうです

リズが葛の葉として悪右衛門に仕えてからは、キツネが全く取れなくなりました。

もともと農業で貧乏ながら暮らしていた悪右衛門は、板倉左大将にキツネ狩りを辞めたいと進言。板倉左大将は悪右衛門に黙って妻を殺してしまったという負い目があるため、強く言えません。

悪右衛門は農家として、家族3人でつつましく暮らしていく道を決めました。

リズはそんな悪右衛門が次第に好きになり、仲間が森に帰るよう勧めても家に残りました。

 

ですが、そんな幸せな生活も長くは続きませんでした。

安倍保名が悪右衛門の家を訪れてきたのです。

仇討ちだと思い、悪右衛門は持っていた鍬で応戦しようとするも、安倍保名は戦うために来たのではないと話します。

安倍保名は、悪右衛門の妻である葛の葉が拷問にかけられていたことを彼に知らせに来たのです。

死んだと思われていた葛の葉は実は瀕死状態で、川を流れていたところを偶然(偶然すぎやろ)安倍保名が見つけ、介抱したそう。(なんでその女性が葛の葉だと分かったのは不明だけど)息を吹き返した葛の葉は、拷問のショックでそれまでの記憶を失い、夫の悪右衛門を見てもなにも感情が現れません。

 

いままで妻だと思っていたのは実はキツネで、本当の妻は上司である板倉左大将に殺されかけていた。そして、それも元は自分が安倍保名を捕らえたからだった…

悪右衛門のショックや自責の念はいかほどだったのか、筆舌に尽くしがたいものがあります。

 

また、2人の言い合いを傍で見ていたリズも自分を責めます。

しかし、すぐにその場所を去らなければなりません。リズは屏風に「恋しくば尋ね来て見よ 和泉なる信太の森のうらみ葛の葉」と歌を書き、坊の制止を振り切って森に消えていきます。

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「おかあちゃんがいなくなった」と泣きつく坊。一切を理解した悪右衛門は久々に刀を握ります。

そして安倍保名に坊を任せ、

悪右衛門「この子を…たのむ…あずかってくれ。あのおくず(葛の葉)にくれてやってくれ。そして…学問を…させてやってくれんか。」

と言い残したあと、馬を走らせます。

自分に学が無いばかりに、上司の策略にうまく利用されてしまった悔しさがあったのでしょう。

 

行先は板倉左大将。しかし、一切を知ってしまった悪右衛門にもはや用はなく、板倉左大将は部下を使い、悪右衛門を弓矢で蜂の巣にします。

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安倍保名は悪右衛門から子供を預かり、本物の葛の葉と一緒に育てることを決めました。

それに伴い苗字も石川から安倍に変更。悪右衛門の遺言通り、学問をさせ、坊は「安倍晴明」という有名な陰陽師となった…というストーリーです。

なので、ここでの安倍晴明はキツネに育てられたことはあるものの、血としては人間同士の子であることは、伝説と異なりますね。

大学者とつながりのある人に拾われたからこそ、当時の安倍晴明の活躍があるようです。貴族社会で、まだまだ武家の地位が低い平安時代だからこそ起きたことなのでしょう。

 

エピローグに「葛の葉神社」というものが大阪府和泉市にあると書いており、高校生のころにこれを読んだ僕は「大学生時代にいつか行きてえな」と思っていたのです。

実際に「信太森葛葉稲荷神社」行ってみた

先日、堺の方に遊びに行く機会があったので、せっかくならばと行ってみることにしました。

JR阪和線の「北信太駅」で降車。ちなみにもうひとつ先の信太山駅は「信太山新地」という遊郭があるところで有名ですね。

コロナ禍でも営業してるんでしょうか。いや、さすがに今は行きませんが。

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降りたホームとは逆の、大阪行きのホーム側に地下道を使っていくと、駅前に大鳥居が。

ここから大鳥居を通って進むとすぐに神社に着きました。

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夢にまで見た信太森神社。住宅街のなかにポツンと森があって面白いです。

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キツネ!

あの有名な歌はキツネらしく、筆を口で咥えて書いたそう。あくまで伝説ですので('ω')

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個人的に興味深かったのがこの石碑。

マンガを見た感じでは「信太の森」らしくここら一帯は森で、現代になって開発で森が無くなっていったんやろなあ…と思っていたんですが、江戸時代にこのあたりを描いた絵をみるとそうではない様子。

この一帯は水田で、いまよりもっと開けた景色だったようです。水田の中にポツンと森がある。

水田が住宅に変わっただけみたいです。きちんと知るとイメージと違うことが多いですし、改めてイメージだけで考えることの恐ろしさを肝に銘じる必要があるな、と思います。

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帰り。神戸への道中梅田を通るので、久しぶりにRapha大阪でも行ってみようかと思いましたが、雨あがり→湿度むんむんでシンドかったのでどこにも寄らず神戸に戻りました( ;∀;)

手塚治虫は昔の伝説を取り上げたマンガをいくつも発表しており、昔は都が京都にあったもんですから関西に聖地があるケースが多いです。

そういった聖地を巡るライドを組んでみても面白いな、と考えつつ、電車に揺られて帰ったのでした。

 

おしまい