ユウのよしなしごと

アウトドアで生活を豊かに。

【惡の華】銚子電鉄に乗って”向こう側”「外川」へ DAY1

感染予防をしたうえで、千葉県は銚子、その最果て「外川」へプチ旅行をした。
関東に移住してから、初めての旅行となった。

f:id:youlin2011:20210517210619j:plain

「惡の華」モデルの街

「銚子」という街名は有名でも、「外川」まで知っている人はそれほど多くはないのでは。

僕がこの街を知ったきっかけは、押見修造先生の代表作のひとつ「惡の華」である。

「惡の華」は、フランスの哲学者ボードレールが書いた小説で、それを物語の核とした漫画がある。

山に囲まれた、そこはかとなく閉塞感漂う街に住む春日高男。文学少年である彼は、街や周りの無学な連中に嫌気が差し、毎日ページをめくる本の世界に光を見出していた。

そんな春日くんにも、クラスのなかに気になる人はいた。「佐伯 奈々子」という少女を、春日くんは「ミューズ」「ファム・ファタール」などと心のなかで呼び、勝手な憧れを抱いていた。

 

ある日、放課後の教室に本を取りに戻った春日くんは、憧れの佐伯さんの“体操着”が床に落ちているのに気づく。魔が差し、春日くんはそれに顔をうずめ、佐伯さんの残り香にうっとりとした表情を浮かべる。

しかし、外からの物音に気付き、自分が今やっていることにも気付いた春日くんは動転して、なんとその体操着を持ち帰ってしまった。

翌日、ビクビクしながら登校する春日くん。教室には、体操着を盗まれたことにショックを受けた憧れの佐伯さん、心配する女子中学生、野次馬化した男子中学生…およそ、春日くんの心境は「バレたらどうしよう」「佐伯さんに嫌われたらどうしよう」。恥と罪悪感が何度も春日くんを嬲る。

心こころ有らずの状態で、春日くんはクラスでも浮き者の女の子「仲村 佐和」に出会う。

仲村さんはニヤリと笑い、春日くんにこう囁く。

「私見てたんだよ。春日くんが佐伯さんの体操着盗んだところ」

 

最大の弱みを握られた春日くんは、仲村さんの下僕と化す。

そんな仲村さんの最大の願いは「向こう側に行く」こと。仲村さんもまた、春日くんと同じく、閉塞的なこの街からの逃避を強く願った。ここで春日くんは仲村さんに対するイメージを恐怖の対象から、同志のように変化させた。あの佐伯さんとの仲を捨ててでも。

2人の願いはエスカレートし、ついには大衆の前で自殺未遂までやってのけた。これにより、春日くんと仲村さんは別れも言えないまま、物理的に離れてしまった。

 

仲村さんを失い、高校に進学しても無気力なまま生きる春日くん。大好きな読書も、引っ越しを期にやめてしまった。

そんな生活のなか、クラスでも“陽キャ”に位置する「常磐 文」が、彼のかつての愛読書であった惡の華を読んでいるところを見かけ、彼女との仲を始める。

周囲からのイメージ通りの自分を優先し、読書や作文が好きであると打ち明けられずにいた。そこに、急に春日くんが理解者として入り込む。春日くんとしても、偶然ではあるが常盤さんの書いた作文の内容が自分の中学生時代と被るものであり、2人は急速に仲を深めていく。

春日くんはある日、常磐さんに自身の過去をすべて打ち明けた。「君と、生きるために」。

覚悟を決めた2人は、現在仲村さんが住んでいるという銚子・外川へ赴く。

外川というマチ

f:id:youlin2011:20210518231159j:plain

醤油と漁師のまち、銚子。イワシが海岸線に打ち上げられることで、僕は知っていた。

ちょうど昼どき、「吉原食堂」へ行ってみた。

f:id:youlin2011:20210518231352j:plain

昔ながら、という言葉がふさわしかろう。実はここ、映画「惡の華」のロケ地。後述する仲村さんの実家として撮影された(漫画版でモデルとなった外川の食堂が廃業となったのも関係している)。
ここではサービス定食の「カレイの煮つけ」を頂く。600円ってすごぐね?

f:id:youlin2011:20210518231629j:plain

その後は歩いて東へ。「倒産寸前」で話題となっている、銚子電鉄の仲ノ町駅に向かった。

f:id:youlin2011:20210518231829j:plain

f:id:youlin2011:20210518231844j:plain

f:id:youlin2011:20210518231857j:plain

しかし、サビ具合がすっげえなこれ…(写真で見返してもなおドン引き)

銚電こと銚子電鉄は、銚子駅~外川駅の6.4kmを結ぶローカル私鉄。6.4kmと聞くと自転車でもアッという間の距離に感じるが、そのゆっくりとした走行スピードやバラエティ豊かな景色の変化からか、乗車中は実際の距離以上に長く、楽しく感じた。

日本のローカル私鉄は銚電だけでなく、その多くが経営に問題を抱えていると聞く。その中でも銚電がこのような厚い支持を得ているのはなぜなのか、非常に興味をそそられる。

f:id:youlin2011:20210518232615j:plain

f:id:youlin2011:20210518232702j:plain

もはや珍しい木造の駅舎を構える、外川駅。ここには昭和が残っている。

最寄りのコンビニはひとつ前の犬吠駅にあるセブン。最果てなのに外川駅周辺にコンビニはおろか、スーパーもない。個人の商店もあるか怪しい。

 

f:id:youlin2011:20210518232856j:plain

豆腐屋。

f:id:youlin2011:20210518232919j:plain

10個の「フ」→とう「フ」→豆腐 という洒落らしい

「二度と来んなよ、ふつうにんげん」

片田舎の漁村である外川。仲村さんは幼いころ離婚した母が営む食堂に、お手伝いとして住んでいるらしい。

食堂で注文をしつつ、席を外している仲村さんが戻ってくるのを待つ、春日と常磐。

ガラッ。高校生らしき女の子が、戸を開けた。春日はそれを直視できずにいる。

仲村さん。常磐が叫ぶ。

そこには、邪気が落ちきったような、以前とは変わり果てた仲村さんがいた。

「ひさしぶり」。

 

最後に仲村は春日に伝える。

「二度と来んなよ、ふつうにんげん

春日はふつうにんげんとして、常盤と生きることを選んだ。仲村を、心の中に咲いた悪の華を、卒業することができた。それを察知した仲村は、春日との別れを決めたのだ。

どんな人間も、思春期という惡の華をいつか卒業して生きていく。それには同じく、パワーに溢れた異性との関わりが不可欠なのだろうか。そして男子はやはり、最後には、「ひとりの女性」を選ぶべきなのだろう。その女性と“生きる”ために。

 

これは個人的な考察だが、外川(とかわ)という地名。とかわは外側とも変換される。外川は外側、つまり2人が渇望した“向こう側”なのである。
押見氏がこの町を物語の舞台に選んだ理由を、いつか知りたいものだ。

大部分が釣り禁止エリアに

いちおう、この日は釣具も持参していた。が、しかし。

f:id:youlin2011:20210519224104j:plain

コロナ蔓延を理由に、外川漁港の大部分が釣り禁止となっていた。まあ大方、ごみ問題のほうが大きいのだろうけど…

関東は人口が多ければ釣り人も多く、それだけ問題も多い。ソーラス条約などで都市部の河川、港湾部の多くに柵が掛けられ釣りができず、かいといって外川のような地方に出向いても釣り場は減少していく一方。残っているのは渡船による沖堤防からの釣りか、船からのオフショアフィッシングくらいか。

なんとも釣りのしづらい環境に身を置いてしまった。ロードバイク、再熱させるか??

民宿犬若

宿は「民宿犬若」。ここでの予約が面白かった。

いつものように楽天トラベルで調べるも、外川周辺には犬吠のホテルを除いて該当するものがない。しかし、グーグル・マップを見ればいくつか民宿がある。

漁港で釣りができると思って、目の前が海、という民宿犬若を発見。どうやら電話で予約を取るようだ。幸い、僕以外に予約者はいなかった。

「すみません、大人ひとりでいくらですか?」

 

「3000円でお願いします」

 

「HA?」

 

え…最近の民宿の値段、安すぎ…?

f:id:youlin2011:20210519224944j:plain

たしかに、年季ありあり。

f:id:youlin2011:20210519225011j:plain

部屋はこんな感じ。8畳一間の激渋空間(これが分かる人、友だちになってください)。

この情報量の少ない空間ですることは、昼寝と読書しかないでしょ。何もない、誰もいない…上質な時間だった。

f:id:youlin2011:20210519225051j:plain

疲れたので、夕方まで仮眠。

この宿、3000円という価格からも予想がつくが、食事は出ない。ホームページには食事のラインナップもあった(僕も当初これをあてにしていた)が、昨今の情勢からして一時休止しているらしい。女将より。

しかも近くには夜開いているような飲食店が存在しない。それくらい、外川は田舎なのである…

しかたないので、民宿から最も近いセブンイレブンまで歩くことにした。ここまで来てセブンかよとも思うが、背に腹は代えられない。ただ、最寄りのコンビニまで2kmというのは勘弁してほしかった…

 

ただ、この日は雨のち晴れ。
厚い雲を夕日が照らす、素晴らしいマジック・アワーを拝むことが出来たのであった。

f:id:youlin2011:20210530221714j:plain

「見て。もうじき日が沈む。この町は海の中に日が沈むの。それでまた、あっちの海から日が昇る。ずーっとずーーっと、ぐるぐる、ぐるぐる。」

f:id:youlin2011:20210530221746j:plain

「キレイ…でしょ?」

f:id:youlin2011:20210530222119j:plain

普段街中にいると、こういう静寂を感じる機会は少ない。
やはり、月に1回はこんな泊りがけの貧乏旅行ができるくらいには、日々の仕事とやりくりを頑張ろう…

 

 2日目に続く。