ユウのよしなしごと

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勲章という幻想【ちいさな独裁者】

2017年公開のドイツ映画「ちいさな独裁者」を見ました。(ネタバレあり)

将校の軍服を見つけたのが始まり

あらすじは以下の通り。

第二次世界大戦末期、偶然の成り行きと言葉巧みなウソによって将校の威光を手に入れた脱走兵の若者が怪物的な独裁者に変貌していく様を描く。1945年にヴィリー・ヘロルトが引き起こした実際の事件をベースにしている。 

 ドイツが敗戦したのは1945年5月初旬。その約1カ月前の4月ごろが舞台です。

 

ドイツ空軍上等兵(一兵卒)のへロルトは戦闘中に脱走し、あてもなく荒野をさまよいます。このころのドイツ軍は敗色濃厚で、他にも多くの脱走兵が発生し、各所で略奪・強姦などの犯罪を犯しているような状況。それらの被害を受けた農民たちは同朋とはいえドイツ兵を敵視するように。自国民に殺される兵士さえいました。

へロルトはある日、乗り捨てられた軍用車を見つけ、車内に入っていた空軍大尉の軍服を発見し、着ます(←ということは、その大尉も脱走したのか?)

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画像出展:BUNDES堂

上等な服を着て寒さをしのぎ、リンゴを頬張るへロルト。暇なので大尉のモノマネをいろいろと練習していると、そこに1人の脱走兵が現れます。

脱走兵は戦闘から逃げたことを隠し「はぐれた」と供述。そしてへロルトのことを将校だと思って疑いません。

それをいいことに、へロルトは将校として振舞い、行動を共にすることを決意しました。

 

農村を転々とし、同じような脱走兵を仲間に加えていくへロルト(途中、へロルトのズボン丈が合ってないことを理由に正体を怪しむ脱走兵もいましたが、自身も後ろめたい身だったので言い出せなかったのでしょう)。

特殊部隊H(へロルト)として活動する彼らの大義名分は「戦線後方の実情を調べる」ことでした。

 

途中、ホンモノの野戦憲兵隊と道中で出くわし身柄を確認されますが、へロルトは「総統からの命令」だと豪語。

このときのヒトラーは神に等しい存在だったようで、総統というワードを聞いただけで憲兵は顔を強張らせ、特例で軍隊手帳の確認を免除しました。

 

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画像出展:YouTube

その後、へロルトは憲兵たちと同行し、ひょんな流れで脱走兵・敵軍捕虜収容所へ視察に行くことに。

そこでは脱走兵の数がキャパの限界に達しているため脱走兵に短期的な処分を求める軍部と、司法に則って適切な処分をするべきとする裁判所が対立していました。

そこで現地の将校は「総統から直接命令を受けた」という、大尉のなかでもとくに権限の大きいへロルトに“即決裁判”を実現するよう、内部工作を頼んだのです。

 

軍隊という縦社会では力こそがすべて。弁のたつへロルトは裁判所よりも強力な人物とコンタクトを取り、収容所での裁判所の権力を無力化。即決裁判を実現させます。

さっそく脱走兵に穴を掘るように命じ、そこに入れさせ、なんと戦闘機用の口径の大きな機関銃で乱射。

穴に潜っていたり、致命傷に至らず死ななかった脱走兵はピストルや自動小銃で直接撃ち殺すなど、この映画の中でも最もグロテスクなシーンにはさすがに目を覆いたくなりました…

ちなみにこの虐殺に近い処分により、のちにへロルトは「エムスラントの処刑人」という異名を持つことになったそうです。

 

その後、連合国軍の空爆により収容所は跡形もなく破壊されますが、へロルトは悪運強く生き残ります。

そして同じように生き残った兵士たちを引き連れ、ドイツのある市街地で即決裁判所として蛮行の限りを尽くしました。

 

どこから情報が漏れたのか、4月下旬、へロルトのいるホテルに本物のドイツ憲兵隊が来襲し、あっという間にへロルトたちは逮捕。

夢のような1カ月が突如終了しました。

 

裁判にかけられ、懲罰として最前線に行くよう言い渡されましたが、へロルトはうまく脱走。

戦後英軍に逮捕され、裁判の末ギロチンで最期を迎えることに。

 

収容所で脱走兵らを虐殺した動機について尋問されると、「何故収容所の人々を撃ったのか、自分にもわからない」と答えたそうです。

“勲章”に踊らされる人間たち

僕はこの映画を見て、軍服や勲章に具体される、人間をグレーディングする実物というのは怖いな、と思いました。

へロルトが軍服を着て初めて会った脱走兵が彼を将校だと信じて疑わなかったのもそうですが、その影響でへロルトも嘘を突き通さなければならない状況になりました。

そして嘘を真実のまま突き通すためにはより大きな嘘で固める必要があります。まるで雪だるまのように。囚人たちを虐殺したのも、その嘘を突き通すためのいち手段に過ぎなかったのです。

へロルト自身も嘘に飲み込まれてしまい、破滅を迎えたのは悲しい事実。

 

この物語は連絡手段・身分確認の手段がそういった軍服や軍隊手帳という限りなくアナログで不正の効くものしかなかった時代だったからこそなり得たのかもしれません。

ですが、勲章に象徴される地位や肩書に本当に価値はあるのかと懐疑的な姿勢を持つことも必要だというメッセージが隠されているのではないかと思ってやみません。

同じくナチスドイツの破滅を描いた『ヒトラー 最期の12日間』では、狂人と化したヒトラーが部下に気まぐれに勲章や地位を渡すも、帝国が破滅しては3文の価値もないと嘆く部下たちのシーンがあります。

 

結局、自分の価値は自分で決めないといけないのかもしれません。

僕はまだ若いので、自分が認知する自分の価値は対外的な評価によるものが高いですが、いつか胸を張って自分の価値を自分で定められるような大人になれれば、と思います。